ベルヌーイ数 (2): ファウルハーバーの公式の証明
前回:ベルヌーイ数 (1): ファウルハーバーの公式のまえがき
さて前回、下記のような数列の和を求める公式をファウルハーバーの公式と呼び、それがベルヌーイ数と呼ばれる数列と深くかかわっているという話をしました。
\[
\begin{equation}
S_k(n)=\sum_{i=1}^n i^k= 1^k+2^k+3^k+\cdots +n^k \tag{1}
\end{equation}
\]
結論から言うと、$k$番目のベルヌーイ数を$b_k$としたとき、
\[
\begin{equation}
S_k(n)=\frac{1}{k+1} \sum_{j=0}^{k} \binom{k+1}{j} b_j n^{k+1-j} \tag{2}
\end{equation}
\]
と表すことが出来、これがファウルハーバーの公式です。
ちなみに、この${b_k}$は一般に使われるベルヌーイ数とは少し異なる、関によって用いられたベルヌーイ数です。これについても後で話します。
ここで、この公式を示すための道筋を示しましょう。
- $S_k(n)$が${\frac{1}{k+1} n^{k+1}}$で始まる$n$の$k+1$次多項式であることを示す
- $S_k(n)$をテイラー展開し、その係数$S_k^{(j)}(0)$を${j=0,1,2,\ldots,k}$まで求める
さあ、では1.から行きましょう。
1. $S_k(n)$が${\frac{1}{k+1} n^{k+1}}$で始まる$n$の$k+1$次多項式であることを示す
まず、自明なことですが、${k=0}$において、
\[
\begin{equation}
S_0(n)=n \tag{3}
\end{equation}
\]
次に${k\geq 1}$のとき、二項展開から下記が得られる。
\[
\begin{equation}
(m+1)^{k+1}-m^{k+1}=\sum_{j=0}^k \binom{k+1}{j}m^j \tag{4}
\end{equation}
\]
これに対し${m=1,2,\ldots, n}$とした$n$本の式を作り、辺々加えると、項がきれいに消しあって、
\[
\begin{equation}
(n+1)^{k+1}-1=\sum_{j=0}^k \binom{k+1}{j}S_j(n) \tag{5}
\end{equation}
\]
式(5)の右辺は
\[
\begin{eqnarray}
\sum_{j=0}^k \binom{k+1}{j}S_j(n)=\sum_{j=0}^{k-1} \binom{k+1}{j}S_j(n)-\binom{k+1}{k}S_k(n)\\=\sum_{j=0}^{k-1} \binom{k+1}{j}S_j(n)-(k+1)S_k(n) \tag{6}
\end{eqnarray}
\]
であるから、式(5)を変形して、
\[
\begin{equation}
S_k(n)=\frac{1}{k+1}(n+1)^{k+1}-\frac{1}{k+1}\left\{1+\sum_{j=0}^{k-1}\binom{k+1}{j}S_j(n)\right\} \tag{7}
\end{equation}
\]
(7)で$S_k(n)$についての漸化式が得られましたので、(3)から順次代入して、$S_k(n)$を求めることが可能です。
各$k$において、それぞれ
${\frac{1}{k+1}(n+1)^{k+1}}$となる項が新しく足されていきますので、
$S_k(n)$の最高次数は$k+1$で、係数が${\frac{1}{k+1}}$であることが示されました。
では、続いて2.に行きましょう。
2. $S_k(n)$をテイラー展開し、その係数$S_k^{(j)}(0)$を${j=0,1,2,\ldots,k}$まで求める
ここでは見方を変えて、$S_k(x)$と引数をいったん実数と考えます。$S_k(x)$を$0$を中心にテイラー展開すると、
\[
\begin{equation}
S_k(x)=\sum_{j=0}^{\infty} \frac{S_k^{(j)}(0)}{j!} x^j \tag{8}
\end{equation}
\]
1. の議論で、$S_k(n)$の最高次数が$k+1$であることがわかっていますので、
\[
\begin{equation}
S_k(x)=\sum_{j=0}^{k+1} \frac{S_k^{(j)}(0)}{j!} x^j \tag{9}
\end{equation}
\]
ここで、
\[
\begin{equation}
S_k(0)=0 \tag{10}
\end{equation}
\]\[
\begin{equation}
S_k^{k+1}(0)=\frac{1}{k+1} \tag{11}
\end{equation}
\]
がそれぞれわかっていますので、$1\leq j\leq k$に対する$S_k^{(j)}(n)$を求めればよいことがわかります。
ここで、下式が成り立つことを用いる。
\[
\begin{equation}
S_k(x+1)-S_k(x)=(x+1)^k \tag{12}
\end{equation}
\]
両辺$x$で微分して、
\[
\begin{equation}
S’_k(x+1)-S’_k(x)=k(x+1)^{k-1} \tag{13}
\end{equation}
\]
$x=0,1,2,\ldots,n-1$とした$n$本の式を作り辺々足すと、
\[
\begin{equation}
S’_k(n)-S’_k(0)=kS_{k-1}(n) \tag{14}
\end{equation}
\]
これは$n$が任意の実数において成立するから、
\[
\begin{equation}
S’_k(x)-S’_k(0)=kS_{k-1}(x) \tag{15}
\end{equation}
\] \[
\begin{equation}
\therefore S’_k(x)=kS_{k-1}(x)+S’_k(0) \tag{16}
\end{equation}
\]
さらに微分して$x=0$とすると、
\[
\begin{equation}
S”_k(0)=kS’_{k-1}(0) \tag{17}
\end{equation}
\]
微分して(17)を繰り返し使うと、
\[
\begin{equation}
S^{(3)}_k(0)=kS”_{k-1}(0)=k(k-1)S’_{k-2}(0) \tag{18}
\end{equation}
\]
よって、$2\leq j \leq k+1$において、
\[
\begin{equation}
S_k^{(j)}(0)=k(k-1)\cdots (k-j+2)S’_{k-j+1}(0) \tag{19}
\end{equation}
\] \[
\begin{equation}
\therefore S_k^{(j)}(0)=\frac{1}{k+1}\frac{(k+1)!}{(k+1-j)!}S’_{k-j+1}(0) \tag{20}
\end{equation}
\]
またここで定義より、
\[
\begin{equation}
S_k^{(1)}(0)=1 \tag{21}
\end{equation}
\] \[
\begin{equation}
S_k^{(0)}(0)=0 \tag{22}
\end{equation}
\]
これらをテイラー展開式(9)に代入すると、
\[
\begin{equation}
S_k(x)=\sum_{j=0}^{k+1} \frac{S_k^{(j)}(0)}{j!} x^j \tag{23}
\end{equation}
\] \[
\begin{equation}
=0+x+\sum_{j=2}^{k+1} \frac{\frac{1}{k+1}\frac{(k+1)!}{(k+1-j)!}S’_{k-j+1}(0)}{j!} x^j \tag{24}
\end{equation}
\]
\[
\begin{equation}
=0+x+\sum_{j=2}^{k+1} \frac{1}{k+1}\frac{(k+1)!}{j!\cdot (k+1-j)!}S’_{k-j+1}(0) x^j \tag{25}
\end{equation}
\]
\[
\begin{equation}
=x+\sum_{j=2}^{k+1} \frac{1}{k+1}\binom{k+1}{j}S’_{k-j+1}(0) x^j \tag{26}
\end{equation}
\]
$ \frac{1}{k+1}\binom{k+1}{1}=1$より、
\[
\begin{equation}
=\frac{1}{k+1} \sum_{j=1}^{k+1} \binom{k+1}{j}S’_{k-j+1}(0) x^j \tag{27}
\end{equation}
\]
$\binom{k+1}{j}=\binom{k+1}{k+1-j}$より、
\[
\begin{equation}
=\frac{1}{k+1} \sum_{j=0}^{k} \binom{k+1}{j}S’_{j}(0) x^{k+1-j} \tag{28}
\end{equation}
\]
\[
\begin{equation}
\therefore S_k(n)=\frac{1}{k+1} \sum_{j=0}^{k} \binom{k+1}{j}S’_{j}(0) n^{k+1-j} \tag{29}
\end{equation}
\]
これで $S_k(n)$を$S’_{k}(0)$を使って表すことに成功しました。$S’_{k}(0)$は$k$によって決まる定数ですから、
\[
\begin{equation}
b_k=S’_{k}(0) \tag{30}
\end{equation}
\]
とします。$b_k$を使って置き換えると、(29)は
\[
\begin{equation}
S_k(n)=\frac{1}{k+1} \sum_{j=0}^{k} \binom{k+1}{j}b_j n^{k+1-j} \tag{31}
\end{equation}
\]
これが求めたかったファウルハーバーの公式です!長かったですね。
あれっ、$b_k=S’_{k}(0)$ が求まっていませんね。果たしてこれは計算できるのでしょうか。
ベルヌーイ数なるこの数列、確かに公式と深く結びついているのですが、いったい何者なんでしょう。
次回は、このベルヌーイ数を具体的に計算してみましょう。