PostHeaderIcon ベルヌーイ数 (1): ファウルハーバーの公式のまえがき

ファウルハーバーの公式と、けったいな名前がついていますが、みなさんのなじみのある公式です。

高校の数列の授業で、このような式を習ったと思います。
\[
\begin{equation}
S_1(n)=\sum_{i=1}^n i= 1+2+3+\cdots +n = \frac{n^2}{2}+\frac{n}{2} \tag{1}
\end{equation}
\]\[
\begin{equation}
S_2(n)=\sum_{i=1}^n i^2= 1^2+2^2+3^2+\cdots +n^2 = \frac{n^3}{3}+\frac{n^2}{2}+\frac{n}{6} \tag{2}
\end{equation}
\]\[
\begin{equation}
S_3(n)=\sum_{i=1}^n i^3= 1^3+2^3+3^3+\cdots +n^3 = \frac{n^4}{4}+\frac{n^3}{2}+\frac{n^2}{4} \tag{3}
\end{equation}
\]

式(1)は、ガウスが小学校の算数の時に一瞬で証明してしまった話で有名ですね。式(3)を知らないという方はこれを機会に覚えてしまってもいいかもしれません。

ちなみに(1), (3)には以下のような関係があることも有名です。
\[
\begin{equation}
S_3(n)=\left\{S_1(n)\right\}^2
\end{equation}
\]

さて、今日のお話は、この級数の一般化、すなわち下記の${S_k(n)}$を求める問題です。
\[
\begin{equation}
S_k(n)=\sum_{i=1}^n i^k= 1^k+2^k+3^k+\cdots +n^k
\end{equation}
\]

これを明示的に表したのが、ファウルハーバーの公式です。関孝和やヤコブ・ベルヌーイもこの問題に取り組んでいたので、関・ベルヌーイの公式と呼ばれることもあります。ちなみにヤコブ・ベルヌーイは流体力学のダニエル・ベルヌーイや解析力学のヨハン・ベルヌーイとは別人です。

関孝和は江戸時代有数の和算家として知られ、円周率や行列式の研究で有名ですが、そんな彼がどうしてこの問題に興味を持ったのでしょう。それは、現在区分求積法と呼ばれている手法の研究のためです。

※注:求積法のためにべき乗和の公式が必要と言っていたのは関ではなく、フェルマーだったようです(参考リンク)。ただ、関がニュートンやライプニッツに先立って求積法を得ていたこと、また彼の著作『括要算法』の中で、ファウルハーバーの公式に相当するものをベルヌーイ数によって明示的に扱っていたことは事実のようです。

たとえば、$y=x^3$を積分することを考えます。
\[
\begin{equation}
\int_0^x x’^3 {\mathrm d}x’
\end{equation}
\]

この積分を解くために、閉区間$[0, x]$を$N$等分します。これが区分求積法の考え方でした。すると積分は、下記の和の極限として置き換えられます。
\[
\begin{equation}
\int_0^x x’^3 {\mathrm d}x’ = \lim_{N\to \infty}\sum_{i=1}^{N} \left(\frac{i\cdot x}{N}\right)^3\cdot \frac{x}{N}=\lim_{N\to \infty}\left(\frac{x}{N}\right)^4 \sum_{i=1}^{N} i^3
\end{equation}
\]

ここで、最後の和の部分が${S_3(N)}$ですから、式(3)を用いて展開すると、
\[
\begin{equation}
\int_0^x x’^3 {\mathrm d}x’ =\lim_{N\to \infty}\left(\frac{x}{N}\right)^4 S_3(N)=\lim_{N\to \infty}\left(\frac{x}{N}\right)^4 \left\{\frac{N^4}{4}+\frac{N^3}{2}+\frac{N^2}{4}\right\}
\end{equation}
\]
\[
\begin{equation}
\therefore \int_0^x x’^3 {\mathrm d}x’ =\lim_{N\to \infty} x^4 \left\{\frac{1}{4}+\frac{1}{2N}+\frac{1}{4N^2}\right\}
\end{equation}
\]
\[
\begin{equation}
\therefore \int_0^x x’^3 {\mathrm d}x’ =\frac{x^4}{4}
\end{equation}
\]

となって、$y=x^3$の定積分が得られます。

では、$y=x^k$の場合はどうでしょう。同様に考えると${S_k(N)}$が登場し困ってしまいます。ただし、この場合は、最後の極限計算で$N^k$以下の項は切り捨てられますから、一般化せずとも$S_k(n)$が高々$k+1$次の多項式で、$k+1$次の係数が$\frac{1}{k+1}$であることさえ示せば求めることが可能です。

現代の視点で考えれば、このような回りくどいことをせずとも、「積分は微分の逆演算である」という微分積分学の基本定理により、一発で求めることが出来ますが、関の時代にはそれは自明でなかったようです。

いずれにしても、鎖国の中で、ニュートンやライプニッツとほぼ同時期といってよい時代に微分積分学の発明まであと一歩のところまで来ており、ほぼファウルハーバーの公式といってよい式を導出していたということは驚くべきことです。

さあここで、関やベルヌーイがどのようにして$S_k(n)$を求めていったのでしょうか。

これにはベルヌーイ数と呼ばれる数列が深くかかわってきます。

続きは次回お話ししましょう。

次回:ベルヌーイ数 (2): ファウルハーバーの公式の証明

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